不朽の名著

慶應義塾大学の講義で、今の社会が抱える問題は何かという学生の質問に対し、教授は応えた『今の日本社会が抱えている病理は、自助自立の精神を忘れてしまったこと・・・。そして、必読の書として勧めるのは「自助論」である・・・』153年もの前に翻訳された本を、何故学生に勧めるのだろう。そこに書かれている、今の社会に必要な精神とは何か。

 

気になった私は早速、サミュエル・スマイルズ著『自助論』(三笠書房)を買い読んだ。この本は、教授が推奨するように、優れた本であると実感した。1858年にジョン・マレー社によって出版され、当時の日本で総計100万部ほど売れたベストセラーだという。今も昔も変わらない、名著なのだ。

 

安政の日本では、日米修好通商条約を交わし、自由貿易がスタートした年にあった。その10年後、明治時代へと替わり、近代国家への道を突き進んでいた。スマイルズは著書で「自助の精神は人間が真の成長を遂げるための礎である」という。明治初期の頃は、伝統を重んじながら新しいものを取り入れる柔軟性があった。そして若者は将来に夢を持ち、自らの足で立っていた。

 

スペシャルドラマ「坂の上の雲」第三部がスタートした。一部では幕藩体制から解かれた若者達の、夢と希望に満ちあふれた姿が映し出されていた。この時代は、勉学に勤しみ志を持ちさえすれば、医者にもなれたし海外に出て学ぶことも出来た。つまり、個人の意義と価値を認める時代の到来を迎えていた。その時代に読まれた本は、文明開化期にマッチしたのだろう。

 

 現代の日本人は、教授が言ったように自助自立の精神を失いつつあるのではないかと感じてならない。明治の青年達がこの本を読んで奮い立ったように、今も忘れてならないものがある。それは、自己実現のため、自らの足で立ち時代を切り開く志のことである。この自助論は、明治の世も平成の世も、時代の要請に求められた不朽の名著であり精神だと結論する