100万回のおはよう ~徳島県石井町の教育~

我々は徳島県の小学校の学校長を勤め終えた山崎先生にお話しを伺うために、バスと電車を乗り継ぎ逢いに出かけた。電車の窓からはどこまでも続く田園風景、熟して落ちかけた橙色の柿の実が、秋の終わりを告げている。到着した駅では、約束した先生と奥様が一緒に笑顔で私たちを迎えいれてくれた。スーツに身をまとった紳士は、お会いした瞬間にいい人だと直感でわかる。

 

先生が教師でいた時は、雨の日も風の日も毎朝、校門に立ち子供たちを出迎え一人一人に「おはよう」を言い続け、その数は100万回にも及んだという。

 

先生は手記で子育て(教育)の基本についてこう語る。「私は今日まで、子育て(教育)の基本は、言葉がけ(勿論、温かく優しい)、抱きしめそして、祈りの三つだと考えてきました。この場合の『祈り』とは、神仏へのそれではなく、私たちの強い願いや思い、そしてそれを継続する意思のことです。子供達は、周囲の大人(親や教師)たちの「祈り」(切なる思い)によって育つのだと、私は信じています。だからこそ、これからも校門に立つことを続けようと思います。子供たちの幸せを祈りながら」(平成197月弘道より)

 

先生の経験に裏打ちされた言葉には、実に力がある。子供たちの心と真剣に向かいあい、全ての子供たちに等しく声をかけてあげる挨拶の必要性を語ってくれた。先生の言う「祈り」はきっと子供の心を動かすでしょう。

 

私はもうとっくに大人になってしまった。残念ながら小学校の時に山崎先生に出会うことがかなわなかった。しかしこの日の徳島での一期一会に感謝をする。先生は、学校長を勇退された後、講演で全国を廻られている。もう一度、先生の教育についてのお話を伺う機会があれば幸せである。